生体肝移植を受けた患者4人が死亡した神戸市の民間病院「神戸国際フロンティアメディカルセンター」で3日、4月に問題が判明して以降、一時中止していた9例目の移植手術が再開された。高いリスクを承知したうえで1カ月以上、手術を待ち望んでいた患者の容体や希望を考慮したという。ただ、神戸市が予定していた立ち入り検査も未実施のなかでの再開には、医療関係者の間でも意見が分かれている。
立ち入り検査前〝寝耳に水〟
神戸市医療産業都市・企業誘致推進本部に、センターから、移植手術の再開を告げる電話が入ったのは2日午前10時過ぎ。市保健所の立ち入り検査を近日中に控える中、〝寝耳に水〟の一報だった。
担当者は「近いうちに再開する意向は聞いていたが…」と驚きを隠せなかった。センター側は当初、市の検査を受け、体制に問題がないことが確認された上で判断したいと表明していた。
検査前に移植の実施を決定した理由を、センターの担当者は「これ以上の延期は患者の体調や精神状態にとって危険で、総合的に判断した」と説明する。
一連の問題を調査した日本肝移植研究会は4月、センターの体制の不備を指摘し、抜本的な組織改革を求めた。センターは1日付で、生体肝移植の第一人者である京都大名誉教授の田中紘一氏が院長を退き、理事長として病院運営に専念する人事を発表。移植の適応を評価する院内の委員会のメンバーも変更し、新体制を整えたとしている。
出典:産経ニュース
「この機会逃せば手遅れに」
今回移植を受ける兵庫県西宮市の男性患者(63)の代理人弁護士も「男性は今は体調が安定している。この機会を逃すと、手遅れになりかねない」と強調する。
男性は平成19年に肝臓がんと判明し、生体肝移植以外に助かる方法はないと診断されている。別の病院で、肝臓の血管が詰まる門脈血栓のリスクが高いとして手術を断られた。
今年4月にセンターに転院したものの、同22日に予定されていた手術は一連の問題判明で延期。5月には臓器提供者(ドナー)となる妻(64)と記者会見し、「リスクは承知している」とした上で、早期の実施を訴えていた。
センターの担当者は「他施設の医師の協力も受け、万全の体制で手術に臨む」としているが、今回手術に加わるスタッフの数などは明らかにしていない。3日午前に開始予定の手術は、30時間程度に及ぶとみられる。
賛否渦巻く
こうした中での移植再開には、医療関係者の間でも意見が分かれている。
滋慶医療科学大学院大の土屋八千代教授(医療倫理)は「病院の体制を改めた上で、患者が手術を切望するならば、患者側の意向を優先するという選択肢があってもいい。専門医が患者の容体などをきちんと判断した上で、患者の気持ちを尊重すべきだ」と指摘する。
これに対し、神戸市医師会の置塩隆会長は「十分な体制ができているか疑問で、市の立ち入り検査を待たずに手術を強行するのは理解に苦しみ、残念。手術を受けたいという患者の意思を尊重するというなら、別の医療機関を紹介するといった対応を取るべきではないか」と話した。
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